「なぁなぁ先週のキュア配信見たか?」 「あぁキュアノーブルの? 相変わらず強かったよな〜」 私達の横を同学年の男子達が他愛のない話をしながら通過する。 「でもさ……キュアウォーターも良くなかったか? あの青い新人の子」 会話の中にある一つの単語に反応し、盗み聞くわけではないがより神経を耳に集中させてしまう。 「あぁあの子? 新人なのに気合い入っててすごいよな〜何より可愛いし」 (か、可愛いか……うへへへ) つい笑みが溢れてしまう。何を隠そうとこの私が今二人が話しているキュアウォーターなのだから。 「高嶺《たかね》? 何気持ち悪い顔してるの? あとボッーと歩かないで車に轢かれるわよ」 私の大親友である波風《なみか》ちゃんが横断歩道の前で肩を掴み止めてくれる。信号は赤になっており先程の男の子達は既に横断歩道を渡り終えていた。 「あっ、ごめん! ちょっと考え事してて……あはは……」 「アンタ最近ボーッとしてること多いわよ。何かあったの?」 「え……いや……何もないけどぉ?」 波風ちゃんは相変わらず勘が鋭い。それに対して私は嘘をつくのが下手で彼女から疑いの眼差しを現在進行形で向けられる。 「はぁ……別にいいわよ隠しても。でも何かあったらアタシを頼りなさいよ」 「あはは……そうなったらごめんね」 なんだかんだ言ってかれこれ十年以上の付き合いだ。お互い信頼し合っている。 [おい高嶺大変だ! またイクテュスが出た! しかもここから近い!] 私達が仲良く通学路を歩いている最中。無粋にも突然脳内に私だけにしか聞こえない声、テレパシーが届く。 [今!? 通学路に居るんだけど……それも友達と一緒に! どうしよう!?] 私は口を閉ざしたままテレパシー上で応答する。 [そこなら近くに公園がある! トイレに行くふりをしてコピー人形と成り代わるんだ!] (う、うぅ……ごめんね波風ちゃん。これも街を守るためだから!) 「い、いててて……ごめん波風ちゃん! お腹痛くなっちゃって。トイレ行ってくるから先に行ってて!」 私は近くの公園へと駆け出し波風ちゃんを置いていく。 「え? 高嶺!! 学校間に合うのそれ!? ちょっと!!」 こちらを呼び止めようとする彼女を無視し心の中で謝罪しながら公園へと駆け込む。 「ここなら誰も見てない
「反応はここら辺……あっ!!」 私は上空から落下しながらモンスターを探していると田んぼの用水路の近くに人と同じくらいの大きさの化け物を見つける。 赤く硬い鎧を纏った両手に大きな鋏を持ったザリガニだ。ただ肥大化したのではない。針のような足を地面に突き刺し二足歩行のフリをしている。 「あ……あ……」 奴の近くで眼鏡をかけた青年が腰を抜かしていて、乗っていたと思われる自転車がザリガニの近くに落ちており真っ二つにされている。 「その人から離れろっ!!」 私は手から圧縮した水をレーザーとして発射する。しかし奴の甲羅は硬く鉄をも貫くレーザーが弾かれてしまう。 「うっ……!!」 一旦レーザーを止める。出力を高めれば貫けるかもしれない。だがもしまた弾き返されてしまったらあの人にレーザーが当たってしまう可能性がある。 (あの人腰を抜かしてるし……助けようにも両手が塞がってたら私がやられちゃうしどうしたら……) 奴と私が互いに睨み合う硬直状態に入る。レーザーがダメなら最悪ステッキで殴ったりも考えたがあの甲羅には通用しないだろう。 「シャインアロー!!」 しかし背後から叫び声と共に光の矢が飛んでくる。それは甲羅を貫通し奴の肩に突き刺さる。 《来たー!! キュアノーブルだ!!》 《美少女王子様は今日も格好いいなぁ……》 《最推しきたぁぁ!!》 彼女が姿を現すと私の方の視聴者がその人、キュアノーブルに釘付けになる。 黄金に輝く髪を後ろで結び、衣装には宝石らしきものがいくつかついている。まるで中世の貴族が本から飛び出してきたみたいだ。 「君はそこの人を安全な場所に!」 「はい!」 光の力で戦う私の先輩キュアヒーローであるキュアノーブル。人気は一番であり私が変身したての頃にも助けてもらっている。 相変わらずのリーダーシップと頼り甲斐のある背中であり、私は指示に従って一般人の青年を避難させるべく肩を貸す。 「動ける?」 「は、はい……すみません……!!」 背中はノーブルに任せて安全な場所まで彼を運ぶ。かなり距離を取った後すぐさまノーブルの元まで戻る。 手伝った方が良いかもと思ったが流石は彼女だ。私が苦戦した相手に汗一つかかずに押している。 「トドメ……」 ノーブルは光を纏わせ鋭さを与えたステッキを振り上げる。しか
「良い動きだった。最近君の活躍はめざましいね。これは君のファンも中々できたんじゃないかな?」 ノーブルがこちらに駆け寄って来て賞賛の言葉を投げかけてくれる。 「いやいやそんなノーブルさ……」 「待て待て。わたし達は同列の仲間だ。序列なんて作りたくない。だからわたしのことは呼び捨てでってこの前言ったろう?」 「はい……!! でもノーブルにはまだまだ及ばないよ。こっちや先のことまで気を配ってて……目先のことしか見えてなかった私とは大違いだよ!」 「うん……そうだね……あ、それより一つ頼み事してもいいかな?」 表情から余裕の色が消え、申し訳なさそうにしながら頭を掻く。 「もうあんまり時間なくて、助けた人とか任せても良い?」 「うんもちろん! 今日もありがとね!」 ノーブルは一言こちらにお礼を言い足早に去っていきすぐに見えなくなる。 「えーっと、そこのお兄さん大丈夫だった? 怪我はない?」 戦いでよく見えなかったが、もし彼が動けない程の怪我をしていたら大変だ。私はすぐに彼の元まで向かい容態を確認する。 「け、怪我はないです……ありがとうございます」 青年は恐怖という鎖から解放され何事もなくスッと立ち上がる。だが表情は暗く笑顔が失われたままだ。 「待って!! えっとその……何か困っていることとか……あるの?」 キュアヒーローの使命はイクテュスを倒し"人々の笑顔を守る"ことだ。それなら私は後者の使命を果たせていない。 「いや何もない……です……その、ありがとうございました」 彼は壊れた自転車を用水路から引っ張り上げ、もう直せるはずもないそれを見て肩を落とす。 「あのっ……」 「あぁいやもういいよ。見た感じ高こ……中学生? 君は学校あるでしょ? ここからはヒーローがどうこうする問題じゃないから気にしないで」 「……はい」 実際壊れた自転車を直す術なんて持ち合わせていない。彼の悩みはそれだけじゃないように思えたが、深くは立ち入らせてくれなさそうだ。 (ヒーローの問題じゃない……か) 私は結局彼の笑顔を見ることなくこの場から去り学校への道に戻るのだった。 ☆☆☆ 「誰にも見られてない?」 「うんもちろん」 一限目の途中。テレパシーでコピー人形の私を学校の人目のない物陰に呼び出す。 「じゃ、おやすみね」
「ふぅ。今日も学校疲れたー!」 私は荷物を部屋に放り投げ、ベッドにダイブする。橙色に包まれた部屋に、このふかふかのベッド。やはり安心する。 今日の疲れもあって私はうとうととしてしまい、眠りへと誘われる。 「おーい。昼に俺に家に来いってテレパシーで呼んだの忘れてるのか? 居るぞー」 横になった私の頭を、兎の妖精キュアリンがつんつんと突く。 「もう流石に寝ないって。疲れたからベッドに飛び込みたかっただけ」 「本当か? お前は単純な所があるからな。まぁそこが良い所でもあるけど」 彼はキュアリン。"彼"という通り可愛らしい見た目の反面性別は男性であり、キュアリンという名前も日本のセンスに合わせれば「大地」という名前のようになるらしい。 彼らはキュア星という遠く離れた惑星から来た宇宙人で、地球に来て調べてる際にその時期に偶然出現したイクテュスに対抗する策としてキュアヒーローの変身道具を使ったらしい。 とはいえキュアヒーローは一定範囲内に居る同族の希望を集めて力に変える装置。地球においてキュア星人にはガラクタ当然だった。 「単純って……でもそんな私にこれを渡したのはキュアリンでしょ?」 キュアヒーローが現れ配信が始まってから半年程経過した頃、一ヶ月前に私はこのブローチをキュアリンに渡されたのだ。 その日から私はキュアヒーローとなり、ノーブルに助けてもらいながらも頑張ってきた。肝心のもう一人のアナテマにはタイミングが悪く会えていないが。 「そうだな……それでテレパシーで言っていたキュアヒーローが探られてるって話は本当なのか?」 「うん。波風ちゃんの親戚の大学生が調べてるらしい。しかも色々設備とか先輩とかも巻き込んでやってるっぽい」
「こらこら波風ちゃんも居るんだしお行儀良くね」「ふ、ふぁい。ほへんはふぁい」 トーストを飲み込むように喉奥に押し込みつつ牛乳で流し込む。「ご飯ありがとねお義父さん!」「どういたしまして。今日は研究で帰るの遅くなりそうだからまたその……ごめんね」「ううん気にしないで。研究頑張ってね」 お義父さんは研究で大忙しであり特に最近は家族の時間がかなり減っている。だが仕事だから仕方ない。私はそう言い聞かせて甘えたい気持ちをグッと抑える。 残りのベーコンと目玉焼きを食べ洗面所に向かう。 「高嶺……また胸大きくなった?」 着替えていると波風ちゃんがひょこりと顔を出し、私が着替える様子を不審者のおっさんのように覗く。発言もセクハラめいていて一気に年老いたようだ。「もう。気にしてるんだからあんまりそういうこと言わないでよ」「気にしてる? 育ってるんなら良いじゃない。成長しないより……」 波風ちゃんは恨めしい視線をこちらに送ってくる。鋭いそれは私の胸に突き刺さり貫通する。「でも大きくなると動きにくいんだよね。体育の時も邪魔だし、ブラのサイズを変えるのも面倒だし」「……それ嫌味?」 波風ちゃんから放たれる視線が更に強く厳しいものになる。睨まれたまま着替えを進め準備もやがて終わる。「じゃあお義父さん行ってきまーす!」「失礼しましたおじさん」 私達は玄関に行き靴を履く。「うん行ってらっしゃい。波風ちゃんもまたいつでも来ていいからね」「はい! ありがとうございます」 波風ちゃんが外に出て私もその後に続こうとする。だがその前に置いてある一つの写真に向き直る。「行ってきます…….お父さん。お母さん」 私はもういない両親にもしっかり挨拶し波風ちゃんを追いかける。 「そういえば……震災からもうちょうど十年なんだね」
「えーっとそれで、健さんはキュアヒーローについてはどこまで調べて……?」 部屋から出てすぐに私は探りを入れる。キュアヒーローについて健さんがどこまで情報を握っているか、真相にどこまで迫っているか確かめるため踏み込む。 「色々だね。今現在活動しているのは三人。 まず一番歴が長いキュアノーブル。イクテュスが現れてすぐ登場して、自慢の光の能力で毎回華麗に敵を倒すね」 私がお世話になっているあのイケメン美少女の人だ。優雅に敵を倒し、キュアヒーローが地球に現れてから常に人気No. 1だ。 「でも一時期出てくる頻度が下がっていた期間がある。その時に現れたのがキュアアナテマだ。彼女は闇の力でノーブルとはまた違うやり方で戦う」 直接会ったことはないが配信上では何回か見たことはある。万物を引き寄せる闇の力と格闘術で隙なく戦う私なんかよりずっと強い憧れのヒーローだ。 「あれ? でももう一人居なかったっけ? 引退したのか見なくなったけど」 「あぁキュアフィリアだね。あまり目立った活躍もなくいつのまにか来なくなっていたが、情報を見た感じ戦うことに乗り気ではなかったようだし、恐らく引退したんだろう」 私もその人は名前くらいしか知らない。ノーブルさんに最初の頃聞いてみたが何故かはぐらかされてしまって分からずじまいになっている。 「そして最後に新人のキュアウォーター。最近現れた期待の新星だね。街を守ることに熱心で向上心も見られる。それに可愛いって評判だね」 「か、可愛いですか……えへへ……」 「どうしたの高嶺? また月曜の登校した時みたいな気持ち悪い顔して」 「えっ!? いや何でもないから……それより健さん続きを!」 相変わらず私は顔に出やすく、バレないよう動かないといけないのにもうボロを出しそうになってしまう。 「それで彼女達の能力だが……俺は二つ仮説を出している」 「二つ……聞かせてもらえますか?」 「まずは政府が作った新兵器説だね。核兵器があるとはいえあれは最終手段でありリスクも大きい。憲法もあるしね。 だからこそちょうど良い強さであるキュアヒーローを開発し、偶然現れたイクテュスでテストしているってところかな」 予想は大きく外れていたので私はホッと胸を撫で安堵する。 「それで二つ目は?」 「宇宙人が持ち込んだ技術……かな」 「
「ここが図書館だね」 「図書……え? この建物全部がですか!?」 着いたのは三階建ての中学の校舎ほどの広さをを持つ建物。これ全部が図書館であるようだ。 「そうだね。俺も初めて来た時はビックリしたよ。見せたい資料は三階にあるから行こうか」 健さんは階段の前にあるゲートにカードをかざして開けてくれる。学外の人は本来入れないらしいが、受付の人に頼み見学として特別に私達も入っていいことになる。 階段を昇り三階まで着くとそこはびっしり本を敷き詰められた本棚が大量に置いてある空間だった。 「二階にもかなり本があったけれど、ここも中々あるわね。これ全部勉学に関するものなの?」 「らしいね。流石の俺でも大学生活通して5%も読めないだろうね。それと見せたいのはこっちね」 健さんは扉を開け薄暗い部屋に入っていく。ひんやりと冷たい空気が足元を掬い、目の前の大きな棚が私達を待ち受ける。 「えっと確かあの新聞は……こっちか」 健さんが棚の一つから新聞を取り出しページをぺらぺらとめくる。 「ほらこれこれ。イクテュスについて載っているだろ?」 新聞にはヤドカリのような貝を背負ったイクテュスの写真が貼ってあり、見出しには「また現れた異形の怪物! その正体に迫る!」と書かれている。 「まぁゴシップレベルの信憑性の内容だけど、中々興味深いことも書かれていてね」 見出しの下の文章をじっくりと眺めてみる。 恐らく健さんの興味が惹かれたであろう箇所を見つける。イクテュスが地球の生物を改造されて生み出されたものではないかという旨のものだ。 (イクテュスは自然発生ではなくて人為的に誰かしらに生み出された……か。キュアリン達も調べてるけどまだあいつらの正体に分かってないらしいし、実際のところどうなんだろ) あいつらは死んだら灰になってしまうため地球の人やキュア星人は何も足取りを掴めていない。 「俺はその記事に賛成かな。少なくともイクテュスは自然発生ではないと思う。人為的に作られた存在だろう。流石に誰が作ったまでは分からないけど」 今まで考えたことなかったが、一体イクテュスはどこから来て襲撃はいつ終わるのだろうか? 私は波風ちゃんやノーブルや健さんとは違いあまり頭が良くない。目先のことしか見えておらず、イクテュスから人々を守ることしか考えていなかった
「食堂は……ここね」 学内を少し歩き、横長く鎮座する食堂まで辿り着く。昼時であるが土曜なので人はあまりいなさそうだ。 「あれあの人……」 私はちょうど今食堂に入ろうとした眼鏡をかけた青年に注目してしまう。どこかで見た記憶があり、頭の中を探ると彼が月曜に助けたあの青年だという情報が引っ張り上がってくる。 「ん? どうしたの高嶺? あの人見つめて……あっ、ほら。向こうの人も気づいたみたいだよ」 「あの……オレに何か用?」 私にガンを飛ばされ流石に気づき青年はこちらに話しかけてくる。しかし前に会った時私は変身していた。彼は私が誰かは分からず初対面の状態だ。 「あ〜えっとその……あっ! 配信!」 「配信……?」 「月曜にあったキュア配信に映ってたなーって」 「あぁあの襲われた時の……お恥ずかしい姿を」 変身しておらず配信も関係ないこの状況下で、歳下の私に対して丁寧に喋る。本当に律儀で礼儀正しい人なのだろう。 「いやいやそんな仕方ないですよあんな化け物相手じゃ……それよりこの大学の人だったんですね」 「いや……オレはここの大学の人じゃないよ」 「えっ……?」 「友人の健ってやつに会いに……」 「たけ兄に!?」 世界は狭いと言うが、なんと私が助けた彼は親友の波風ちゃんの親戚の友人だった。 「そうだけど……君は?」 「あっ、すみません。アタシはたけ兄の親戚の海原波風です」 「波風……そういえば健が親戚に女の子が居るって言っていたような……」 まさかの繋がりだ。あの時もう二度と会うことはないと思っていた人にこうして巡り会えた。 (あの時笑顔になれなかった理由……分かるかな……) 彼を助けた時のあの表情が今も忘れられていない。胸に残り続けモヤが脳に染み込み離れない。 「あのアタシ達今からお昼なんです。よければ一緒にどうですか? 高校の頃のたけ兄の話も聞きたいですし」 「あぁ別に大丈夫だよ。あいつなら面白い話無限にあるし」 そうして私達二人は新しい仲間を加え食堂の中に入り、食券機で券を購入しカウンターでチキンカツ定食を受け取り席に向かう。 「いただきます!」 早速私はチキンカツに齧り付く。サクッサクの衣に中からは肉汁が溢れ落ちる。肉は分厚くソースは甘い風味がありアツアツホカホカの白米がよく合う。 「相変わら
「へぇーじゃああの二人は仲直りできたってこと?」 翌日の日曜日。私達は勉強会を開いていた。といったものの主に私が波風ちゃんに教えてもらっているのだが。その過程で息抜きにお菓子でも食べようという話になりこうしてドラッグストアに買い物に来ていた。 「あっ! 高嶺に波風じゃない!」 お菓子コーナーを物色していると偶然朋花ちゃんに出会う。 「あの……弟は大丈夫だった?」 昨日朋花ちゃんの弟は警察に保護された後に病院に運ばれた。私達はその後の事は知らない。すぐに手当てしたとはいえ二日近く放置されたのだ。重大な後遺症が残っていても不思議ではない。 「とりあえず命に別状はないし後遺症とかもないって。退院は様子を見て三日後だって先生が言ってた」 「ほっ……それは良かった」 「あれ? 何で高嶺がそのこと知ってるの?」 「あっ……それは……」 ドンッと波風ちゃんの肘が私のお腹に突き刺さる。 [何ポロッと失言してんのよアンタ!] [ご、ごめん波風ちゃん〜弟君のことがつい気になっちゃって!] [はぁ……アタシが誤魔化すからこれ以上余計なこと喋るんじゃないわよ] 「昨日のキュア配信に弟君が助けられる姿が映ってて。でもその後は映ってなかったからどうなったのか心配で……」 「えっ、そうなの!? 見てなかったから知らなかったよ……まぁとにかく弟を助けてくれたんだしキュアヒーローには感謝しないとね」 なんとか誤魔化せた。それにしても本当に私はついうっかり失言してしまうことが多い。 (気をつけないと……) 「あっ、今手に持ってるのってもしかして弟君に持ってくの?」 「そうだけど……あ、高嶺と波風も来る? そうした方がアイツ喜ぶと思うしさ」 「もちろん行くよ! 波風ちゃんも行くよね?」 「当たり前でしょ? 仲間外れにするつもり?」 軽口を叩きながらも波風ちゃんも快くついて来てくれる。会計を済ました後私を先頭にしてドラッグストアから出る。 「きゃっ!!」 しかし私は大柄な人にぶつかってしまい大きくよろめく。 「またお前か……」 小さく溜息を吐くそのぶつかった相手は健橋先輩だった。相変わらずの体幹で向こうは全くよろめいていない。 「ひっ……鬼の神奈子……!!」 彼女の寝不足が拍車をかける恐ろしい形相を見て朋花ちゃんは体を震わし
「とりあえずあの子は警察に引き渡ったらしいな」 戦いが終わり私達はマンホールを登り外に戻る。男の子二人は波風ちゃんに任せ、彼女は今行方不明の子を保護したとして事情聴取を受けている。 一方私達は田んぼの近くで変身を解き息を整えていた。 「今回はなんとかなったね。二人のおかげだよ。ありがとう」 私は二人に手を伸ばすが受け取られることはない。健橋先輩が地面に腰掛け座る橙子さんに迫り寄る。 「天空寺の言う通りなんとかなった……これでイクテュスに関してのいざこざは終わったな」 「そうだね……で、何か用?」 互いに牽制し合い、戦った後だというのに疲労を感じさせない目つきで睨み合う。 「もう言う必要もないだろ……」 「そうだね……リンカルやキュアリンが来る前にケリをつけようか」 二人ともスッとブローチを取り出す。それを服につけようと手を胸元に持っていく。 「だめ!!」 私は一歩踏み出し健橋先輩の頬を引っ叩く。思いもよらなかった所からの一撃を避けれずクリーンヒットして彼女の頬は赤く腫れ上がる。 「えっ……高嶺? 何をやって……」 困惑したのは橙子さんもだ。だが私は橙子さんにもビンタを放ち頬に紅葉を作る。 「いてて……親にも打たれたことはなかったんだが…….」 「どういうつもりだ天空寺? いきなりぶちやがって」 双方の注意が私に向けられる。とりあえずは一触即発の事態を脱却できた。 「二人が啀み合うことが納得できなかったから。でも話しても分かってくれなさそうだから……だから叩いた」 私は物怖じせず正直に、率直に自分の考えを述べる。 「そんな暴力的な……いや、わたし達は文句言える立場じゃないか」 「ちっ……お前と同じ意見だなんて最悪だよ」 やっぱり二人は互いに悪態をつきながらも根本の部分は似通っている。一人で抱え込んで己の意志を貫こうとしている。 「私にとって二人も守りたい、笑顔になってほしいこの街の人なの。だから傷つけ合ってほしくない」 二人は黙って別々の方向を見つめる。しかしその四つの瞳は同じ街を同じ志で見守っている。それだけは間違いない。 「リンカルから聞いたよ。キュアフィリアの、翠さんの話」 「ちっ、あの野郎勝手に……」 「あはは……知られちゃったか。幻滅した?」 「その件で誰が悪いだがとか、こうす
(ちょっと臭うな……) 農薬なのか排泄物なのか、あまり長居はしたくない匂いが鼻を刺激する。しかし人命がかかっている以上そんなこと気にしていられない。 ノーブルを先頭に私達は下水道を走って反応に近づいていく。 [みんなもうすぐだ。気を引き締めてくれ] 反応のある場所まであと少し。そこまで来たところでノーブルから一言注意がかかる。 「あっ!! あそこに子供達が!!」 下水道の壁にもたれかかるようにして二人の男の子が気を失っていた。片方は先程の子でもう片方は朋花ちゃんの弟だ。 「だいじょ……っ!?」 イクテュスの反応はもう少し先だ。ノーブルとアナテマに見張ってもらい私とイリオはこの子らに肩を貸そうとする。しかし朋花ちゃんの弟のその冷たさに一瞬恐怖してしまう。 だが死んでいるわけではない。低体温症だ。弱らされて放置され体が冷え切っている。 「そうだ……イリオ! 熱の力で……」 「そっかアタシの力なら……」 イリオが能力で熱をこの子に移して危険な状態から引き戻そうと試みる。だがそんな彼女にイクテュスの魔の手が迫る。 「ウォーターシールド!!」 私は新たに作り出した技を使う。何層にも力を込めた水をカーブミラー状に固めて盾にする。 奴の足はそれを破れず攻撃はイリオには届かない。 「なるほど……前アタイが倒した分は戻ってないみたいだな」 ノーブルとアナテマの方にも別々の分裂した奴が攻撃を仕掛けていたが、二人は気を乱さず攻撃に対処する。 しかし不意打ちが失敗し不利だと判断すると奴らは一目散に逃げ出す。 「追いかけるぞ!!」 アナテマを先頭に闇で逃亡を妨害しつつ追いかける。 「あいつらは私達に任せてイリオはその子達をお願い!」 「分かった! 絶対に逃さないでよ!」 低体温症を発症している子と先程連れされたばかりで困惑する子はイリオに任せる。その後私達三人が百数メートル走った後にイクテュス達は諦めピタリと空中で泳ぎを止める。 「三体別々で動くはずだ……助けは期待しないでくれよ」 「言われるまでもねぇ。アタイがまとめて倒してやってもいい」 二人とも一切の物怖じを感じさせない気迫だ。私も負けていられない。 「これ以上被害を拡大させないためにも今ここで確実に倒す……みんないくよ!!」 私の掛け声が試合開始
[えーと、今ある反応の方に行けばいいんだよね?] [そうだ。そこに俺が居る。近くの電柱に白いタオルを巻いといたからすぐに分かるはずだ] 土曜日の夜遅く。私とイリオは夜の街を颯爽と駆けていた。 昨日イクテュスと戦った田んぼ道を走っているが本当に人が居ない。 「暗いから逸れないようにね。ちゃんとアタシのあとついて来るのよ」 「うん分かってる。目印がないから逸れたら大変だしね」 人が居ないだけではなくここは電灯があまりない。おかげで偶に通る車から闇に潜んで隠れられるが少し先は真っ黒だ。 「あ! あったあそこじゃない?」 私は聞いてあったタオルが巻かれた電柱を見つけ指差す。 「ん〜と……あっ、あれね! もうノーブルとアナテマも来てる……」 「えっ!? もしかしてまた戦い始めたり……」 「いやそんなことはないみたいだけど……とにかく行ってみましょう」 私達は二人が居る道路から死角になっている田んぼの所に入り屈んで潜む。 「やぁ来てくれたね二人とも。今回の相手は数が増えるタイプだから心強いよ」 つい先日あんな姿を見せバチバチだったのに、ノーブルは何事もなかったかのように話しかけてくる。アナテマも一瞬こちらに視線を向けるがブローチを取り上げようとする気配はない。 「全員集まったみたいだな……」 田んぼの稲の間からキュアリンがひょこりと姿を現す。 「リンカルは別の場所で準備してくれている。とりあえずお前達はしばらくここで待機。反応が出たらすぐにそこに向かってくれ」 「深入りはしないけど、その作戦は本当に上手くいくのかしら? 信じてないわけじゃないけど都合が良いというか……」 キュアリン自体は信頼しているが、その作戦自体は正直半信半疑だ。 「とにかく俺を信じ……」 脳内に信号が送られる。いつもキュアリンが送ってくれるものだ。 場所はここからそう遠くなく人の走る程の速度で移動している。 「これに行けばいいんだよね!?」 「そうだ! 配信はタイミングを見計らって開始させる! 後は頼んだぞ!」 私達四人は一斉に駆け出して反応のある方向に走り出す。経験からか先輩二人の方が速く先行する。 「追いついたっ! あそこだ!」 ノーブルが光の粒を高速で飛ばしイクテュスにくっつけ目立たせる。奴は小学生くらいの男の子を抱いて
「へぇ……あの桐崎グループのお嬢様がこんな庶民御用達のスーパーに居るなんて意外だな?」 神奈子はわたしの顔を見るなり敵意を剥き出しにして毒を吐く。人前なので流石に変身はしないが、もしこの場所でなければ間違いなく殺意を爆発させ襲われていた。そう思うほどの気迫だ。 「別にいいだろ。君こそ一人でそんな食べるのかい? 随分食べ盛りなんだね」 カートには食材が大量に詰め込まれており明らかに一人で食べる量ではない。 「お姉ちゃーん! このお菓子買って!」 わたし達の険悪なムードを壊すように幼い男の子がお菓子片手にこちらに来る。紫色のよくある知育菓子だ。わたしは生憎食べたことはないが。 「お菓子はさっき籠に入れただろ。お菓子は一つまでだ」 弟らしき子に向ける顔はわたしへのものとは大違いであり優しさに満ち溢れている。きっとあれが本来の神奈子の顔なのだろう。 それを壊したのは……わたしに向けるあの形相に変えてしまったのは……翠を死なせたわたし自身だ。 「あれ? そこの人は? お姉ちゃんのお友達?」 「なっ……そんなわけないだろ!」 わたしへ向ける憎悪と家族への愛情がごちゃ混ぜになり神奈子は大変やり辛そうに表情を泳がせる。 「そうだねお姉ちゃん友達少ないもんねー」 「なっ……お前……!!」 (家族仲……良さそうだな……) 笑顔が溢れ互いに隠しなく感情を表現し合える仲。それがわたしにとっては眩しく羨ましく映った。 「神奈子。また今度」 「……あぁ」 こんな状況でお互い啀み合うわけにもいかない。わたしは彼女の横を素通りしプリンを探そうとする。 [神奈子! 橙子! イクテュスの居場所が分かるかもしれないのだ!] お互い反対方向に向かい別れるはずだった。しかし進行は同時にピタリと止まる。 「大河……ちょっとお姉ちゃん用事ができたからお会計頼めるか?」 神奈子は財布を取り出しカートと共に弟に渡す。 「え〜ならお菓子もう一つ!」 「分かった……好きなの二つ買っていいから良い子で待ってるんだぞ」 「わーいありがとう! お姉ちゃん大好き!」 大河君は天使のような笑顔を浮かべカートを押していく。 「分かってるよな?」 「もちろんさ。そこら辺は弁えている。邪魔にならないように隅っこでやろうか」 わたし達は人があまり通らな
「ごめんね……神奈子ちゃん……それに……ノーブル……」 わたしの目の前で一人の命の灯火が消えようとしている。共に戦った仲間はある一人の事情の知らない女の子の膝で血を吐き顔を青ざめさせていく。 「おい翠……なんだよこの怪我……何があったんだよ!?」 「神奈子ちゃん……あなたは……」 何を伝えようとしたのかその真意が分かることは一生ない。ガクンと彼女の全身から力が抜け落ちる。 「おい……おい翠!! 翠!!」 どれだけ揺さぶろうとも彼女が目を覚ますことはない。腹に大穴を開け内臓損傷だけでなく流れ出る血の量から判断しても蘇生は不可能だ。 「なぁお前……キュアノーブルだろ?」 涙を流しながらも神奈子と呼ばれた子はこちらに問いかけてくる。 「何があったんだよ……なんでこんなことに!?」 「それは……その……」 はっきり喋ることができない。人前で話すのは得意だったはずなのに、起こったことをただ話せばいいだけなのに後ろめたさが喉を締め付け声を発することを許してくれない。 「何か知ってるんだろ!? なんとか言えよ!!」 神奈子は行き場を見つけられない怒りを背負いこちらを怒鳴りつける。 「……このことは忘れた方がいい。キュアヒーローのことはもう忘れてくれ」 わたしはそれだけ伝え逃げるようにこの場から立ち去るのだった。 ☆☆☆ 「……はっ!!」 また何度目かの同じ夢を見てわたしはベッドから飛び起きる。 「ぜぇ……ぜぇ……」 まるで何かから逃げるため全力疾走した直後かのように肺に酸素が足りておらず、わたしは必死に息を吸い込む。 「七時か……」 時計は七の刻を示している。土曜日だとはいえ休日をダラダラ過ごすなんてことはしない。わたしは寝巻きからキチンとした服装へと着替え、その後メイドが作った朝食を食べに呼ばれる。 「橙子。最近調子はどうだ?」 今日は珍しく両親が家に居て一緒に朝食を食べることになった。わたしがスープを口に運んでいると父様がそれとなくありきたりな話題を振ってくる。 「問題はありません。桐崎の名を継ぐ者として恥がないよう生活しています」 「そう……でも一時期……二ヶ月ちょっとくらいかしら? 成績がすこぶる落ち込んでいたけれど大丈夫だったのかしら?」 母様が痛い所を突いてくる。一瞬手が止まるが何事なか
「なるほど……イカのイクテュスに喧嘩する二人のキュアヒーロー……いやぁ興味深いね」 あの日帰ってから私達は倒れる様に寝ていつもより少し遅い時間に目を覚ます。そしてイクテュスと戦ったことを健さんに報告し、家まで来てもらってあったことを話しそれを記録してもらっていた。 「何が興味深いだ。二人の険悪さは深刻な問題なんだぞ」 キュアリンもこの場に呼んであり、私達が戦うより前の事も彼に話してもらう。 「大体情報はまとまったよ。つまりあのイカのイクテュスは小学生くらいの男の子が好物だというわけだ。動物には個体によって食事の好みがあるみたいにね。それにイクテュスになって異常を体にきたしたとすれば人間を襲うようになるのにも納得がいく」 健さんは難しそうな本を見つつもノートに私が知らないような漢字や単語を書いていく。 「ねぇ波風ちゃん……もしかして朋花ちゃんの弟も……」 「あっ……だとしたら……」 捕食された。そんな最悪な結末が容易に想像できてしまい、それが現実になった場合の彼女の反応をイメージし心を痛める。 「いやまだ希望はある。キュアリン。奴が出没した地域で血痕が残っていたりはしたかい?」 「俺が見た範囲ではないな」 「路上で捕食したなら騒ぎになるレベルの血痕が見つかっていないとおかしい。なら奴はどうしたのか……どこかに連れ去った可能性が高い」 「連れ去ったって……どこに?」 「そこまでは流石に。でもまだ死に至っていない可能性もある。正直可能性は半々だけどね」 それならまだ希望が持てる。だが肝心のイクテュスの居場所が分からない。いつもどうやって見つけているのか分からないがキュアリンもお手上げのようだ。 「いや待てよ……その年齢の男の子を襲うなら……もしかしたら連れ去られた場所が特定できるかもしれない」 「本当!? どうやって!?」 私は一筋の光にしがみつくようにキュアリンとの距離をドタドタと詰める。 「そ、それは言えない……ただ奴が対象を連れ去る習性があるならほぼ確実に行方不明の子は見つかる」 「また言えないの? そういえばキュアリン達っていっつもどうやってイクテュスの場所を特定してるの? SNSとかニュースよりも早いし」 「それは秘密なんだ。お前らには現段階では教えられない。ただ何も人間に迷惑をかけるようなことはしていない
「えっ……死んだって、イクテュスに殺されたってことなの……?」 「そうなるのだ。あの時はノーブルとフィリアの二人体制で配信してたのだ」 その頃のことは朧気にしか覚えていないが、二人だけの時期もあったような気もする。それくらいフィリアの記憶は曖昧で頭の中に残っていない。 「フィリア……翠はあまり戦いに向いている性格じゃなかった。僕も途中で辞めるようそれとなく伝えたけど……優しい彼女はほんの少しでもノーブルの力になりたくて……負担をかけたくなくて……それに親友の神奈子に危害を及ばせたくないって断ったのだ」 まるでこの前までの私と波風ちゃんの関係のようだ。翠さんと健橋先輩の立ち位置は。 「二人はキュアヒーローが同種族の希望を力に変換して強くなるっていう仕組みは知っているのだ?」 「そういうのは私も波風ちゃんもキュアリンからしっかり聞いたよ。だから配信して希望を集めてるんだよね?」 「そうなのだ……でももしイクテュスを倒す頻度が落ちて人気がなければ、有限の希望を独占されたらどうなると思うのだ?」 希望の独占。言い方は悪いが恐らくノーブルの方が活躍しすぎていたのだろう。実際に当時の彼女の配信は今でも印象に残っているが、フィリアの方は全く記憶にない。 「希望が集められなくて弱体化するのよね? まさか……」 「そうなのだ。弱ってついには変身道具依存の配信機能も壊れて変身すら維持できなくなって、最後はイクテュスに……橙子も必死に助けようとしたのだ。でも間に合わなかったのだ。そして最悪なことに吹き飛ばされた翠は通りかかった神奈子の前で……」 リンカルは言葉を詰まらせそれ以上何か言おうとはするが喉元で停滞するだけで発さない。 「もういいリンカル。ここからは俺が説明する」 キュアリンがリンカルの背中を摩り下げさせる。 「代わって説明するが、神奈子がキュアヒーローの力を憎んでいるのはそれが原因なんだ。 それにあいつが使っているブローチは……翠が使っていたものだ」 健橋先輩と翠さんを私達と重ねてしまっていたので、想像するだけで胸の奥がキュッと締め付けられる。そして健橋先輩の怒り様に納得してしまう。 「あいつは全てを知り橙子や俺達を憎んで、橙子は自らの罪を受け入れて償おうと、それでもって許されようとはしない。その結果が互いにキュアヒーローを辞
「リンカル……そこを退け!! そいつにキュアヒーローとしての資格なんてない。アタイが倒してそのブローチを叩き壊してやる……!!」 「全く君は相変わらず荒々しいね。そんな性格で人助けは向いてないよ。君こそそのブローチをリンカルに返却してキュアヒーローを降りたまえ」 リンカルと呼ばれたハムスター? のような見た目のキュア星人が止めようとするものの二人とも聞く耳を持たない。 「お前ら何やってるんだ!! キュアヒーローの力を行使したイクテュス以外への攻撃行為は許されていないぞ!!」 そこにキュアリンも来て二人を説得する。理論を加えることにより二人もとりあえずは力を解き殺意を抑える。 「ねぇ……二人ともどうしたの!? 配信ではあんなヒーローしてたのに、何でキュアヒーロー同士で……私達はみんなの笑顔を守るヒーローじゃないの!?」 ノーブルはバツが悪そうに視線をこちらから逸らす。だが対照的にアナテマは私を睨みつけ先程ノーブルに放っていたものを私に向ける。 「ふざけるな……何が正義ヒーローだ……!! キュアヒーローはそんな希望の力じゃない……こんなの人を狂わす呪いの力だ!!」 アナテマは胸にあるブローチを強く握り締める。そして私の方に近づいてきて胸元に、ブローチの方に手を伸ばす。 「ちょっ……何するのやめてよ!!」 私は咄嗟に後ろに下がりブローチを守る。彼女は目に見えて不機嫌になるが後ろからノーブルが睨みつけ牽制する。 「お前らなんかがこの力を使えこなせるもんか。死にたくないならとっととこんなこと辞めて日常に戻るんだな」 アナテマは捨て台詞を吐き闇に溶けて消えていく。 「はぁ……アナテマ……いや神奈子は相変わらずだな」 「えっ……神奈子って、もしかしてあの健橋神奈子!?」 「いやいやそんなまさか。かなこって名前は一般的だし同音の別人よきっと」 「君達……健橋神奈子を知っているのか!?」 しかしノーブルの反応はまさかのもので、変身を解除しつつ、桐崎橙子の姿へと変わって私達の方に駆け寄る。 「えっ……橙子さん!?」 「ん……? そうだが君達は?」 「私達です! 今日下校する時に会った……」 私達も変身を解いて素性を晒す。これには橙子さんも飄々とした表情を崩す。 「いいのかリンカル? 私生活に無駄に関わらせて?」 「彼女達